「芽が出てくるのが見えるんだ。」

 

庭の周りの低い大谷石の塀に

子供のように腰を掛けて

庭を眺めている父が言った言葉。

 

庭の畑に野菜の種をまき、苗を植え

日中は殆ど庭で過ごす父。

 

塀に腰をかけているので

身体の半分はお隣さんちに入り込んでいるのが

ちょっとおかしくて

 

「そこで何をしているの?」

と声をかけたら

この返事。

 

蒔いた種から芽が出てくるのが見えるんだという。

 

「嘘だぁっ」

と言ってしまったが

よく考えたら父にはみえるかもしれない。

だって、定点カメラのように佇んでいるから。笑

 

 

玄関にある花瓶のユリが

蕾から見事な花へと姿をかえた。

 

朝、起きて通り過ぎて2度見した。

いつの間に・・・。

というか寝てる間に?

 

父はこれには気付かない。笑

 

そういう季節だ。

 

きっと今もどこかで

「さあ、春ですよ」

と色んな芽が花が

聞こえない音をたててるんだろうな。

 

聞きたいな・・・。

躍動の音。